このワクチンは日本では1986年からB型肝炎母子感染予防のために乳児に接種が開始されました。母親がB型肝炎ウイルス(HBV)の感染者ないしキャリアーの場合のみ接種されました。費用対効果の観点から十分であると日本では考えられましたが、同時期に接種を開始した台湾では赤ちゃん全例に接種するという方法が選択されました。現在では180か国以上でユニバーサルワクチン(全例に接種するワクチン)として接種されています。
当時 B
型肝炎は血液のみを介して感染すること、新生児期に感染すると慢性肝炎、キャリアーとなり、将来肝がん、肝硬変になるリスクが高いのですが、幼児以降の感染では急性肝炎のみで終わり、慢性肝炎にならないと考えられていました。そのためハイリスクの赤ちゃんにのみワクチンを接種すれば肝炎が減少し、将来的には
B
型肝炎を撲滅できると考えられていました。確かに減少はしてきていますが、以下に示すようにいくつかの理由により撲滅するには至っていません。
B型肝炎にはいくつかのタイプがあり、以前から日本でみられるHBV(ジェノタイプ
C)は幼児期以降の感染で慢性肝炎になるのはまれですが、欧米でみられる
HBV(ジェノタイプA)は、どの年齢でも約10%の症例で慢性肝炎に移行して、将来肝がん、肝硬変になるとされています。そして近年欧米型の肝炎が、若い人の急性
B 型肝炎の半分以上を占めるようになりました。また以前 B
型肝炎は血液を介してのみ感染すると考えられていましたが、汗や涙、唾液など体液からも高濃度のウイルスが検出され、動物実験で感染が成立することが証明されました。大学などの運動部で汗などによって感染したと思われる
B 型肝炎の集団感染がいくつか報告されています。
またB
型急性肝炎の既往のある患者さんが癌や膠原病などの疾患で、化学療法、免疫療法を受けた場合、肝炎ウイルスが再活性化することが報告されています。そのとき免疫療法を終了すると劇症肝炎となる場合があり、こういった劇症肝炎の死亡率は通常の急性肝炎による劇症肝炎より非常に高いと報告されています。そのため現在では化学療法、免疫療法の開始前には
B
型肝炎の既往があるかのチェックが行われます。陽性の場合B型肝炎ウイルスを100%体から排除する治療法がないため、慎重に治療を行わなければならず、危険を伴います。さらに全例でワクチン接種を行っている台湾、アラスカでは肝がんの減少も報告されています。これらの理由よりわが国でも全例接種が望まれます。
またワクチンによる抗体獲得率は接種年齢が低ければ低いほど高率で、成人になってから接種した場合は抗体価が上がらない人も多くみられます。平成28年度から定期接種になる可能性がありますが、対象者は
1 歳未満の乳児だけになる可能性が高いようです。そのためまだ B
型肝炎ワクチン接種をされていない方はできるだけ早期にかかりつけのクリニックで予防接種を受けることをお勧めします(なお現在小山市においては
2 歳未満の幼児に対して半額の助成を行こなわれています)。 |