日本は世界一の長寿の国ですが、少子高齢化で介護をとりまく問題はこれからが大変です。介護サービス導入の要因としては転倒・骨折や関節疾患も多く、これらは整形外科が扱います。介護予防のうえで骨・関節・筋肉など運動器への関心が高まり、ロコモティブシンドロームへの理解も深まりつつありますが、介護審査会では家で這っているケースの審査も少なくないのが現状です。
膝や腰の痛みは70代でも「高齢で仕方がない」と思われがちです。また、「湿布を貼れば治る」と思って、内科に受診した際に「ついでに湿布をください」と言っていませんか?
運動器の痛みは筋肉の柔軟性や筋力の低下が関与することが多く、ゆるめの関節の人は骨の位置関係が変化しやすいため、軟骨の摩耗や二次的な関節周囲の柔軟性低下が生じると考えられます。負荷が繰り返し加わる関節や脊椎では、骨の変形や筋肉のこわばり・疲労が生じ、神経が刺激を受ければ痛くなります。筋肉や関節の機能が低下し、負荷が大きければ痛みますが、機能と負荷のバランスが保たれていれば、高齢者でも運動器の痛みを感じずに生活できると思われます。
内服・湿布・注射などの薬や電気・温熱などの治療だけでは、原因となる筋肉や関節の問題は改善しないので、これらと並行して、筋力強化・関節可動域訓練・バランス保持訓練などの運動療法を行うことが重要です。ロコモティブシンドロームでも「ロコモ体操」が推奨されています。
作業や動作の負担を減らし、疲労から回復した後には、徐々に痛みが消えていきますが、これを「治った」と思っていませんか?他の診療科では痛みがなくても治療を継続する病気があります。例えば高血圧症では「高齢なので仕方がない」とは言わないし、血圧が正常になっても治ったとは思わずに薬を続けますね。運動器の場合でも、痛みが消えた後にレントゲン像をみれば骨に変形があるし、筋力低下も残っています。関節や筋肉が硬ければ、治っていないと考えるべきで、痛みが取れたらゴールではなく、痛みを予防するためのスタートです。痛みがとれた後も適切な運動をつづけることが転倒・骨折・介護の予防につながります。
いちばん手軽な運動は歩くことですが、近所の散歩は30分程度で、雨が降れば歩かないという方も多いです。一方、街を歩いて買物や食事、鑑賞や見学などもすると合計では数時間歩くことにもなり、電車・バスの利用や階段の昇り降りがあれば、運動量はさらに増えます。趣味や習いごとで出かける人はますます元気になり、人生を楽しむことにつながります。月に数回はこのような長時間の外出をすることをすすめています。
しっかり歩けるためには、定期的に整形外科専門医の施設でレントゲン像や骨密度、筋力や関節可動域など、運動器の評価を受けることもおすすめします。適切なアドバイスを受け、介護予防に役立てながら、健やかに人生を楽しんでいただきたいと思います。
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